コラム
皆さんは苦味のある食べ物はお好きでしょうか?何種類か思い浮かびますが、苦味を感じる食べ物が大好きだという方はそう多くないはずです。苦味を持つ食べ物は、人間にとってどのような存在になるのでしょうか?ここでは味覚の一つである苦味を中心に考えておきましょう。
塩味を人間が感じるのは、人間には塩分がとても重要だからです。塩分は筋肉を動かす際に必要な成分であるだけでなく、細胞内の浸透圧を一定に保つなどの働きもあり、体の健康に欠かせない成分になります。
人間にとって、塩分を摂取することは生存に欠かせないため、塩味を感じるようになったと言われています。
塩味に関しても、舌の味蕾と呼ばれる味覚センサーを司る部分で感じますが、塩分については美味しいと感じるラインは甘味に比べると狭くなっています。多過ぎても少な過ぎてもダメで、塩分が少ないと美味しくなく、また塩分が多いと塩っ辛いと感じるようになっています。
塩分摂取は少な過ぎるのは問題ですが、多過ぎると体のミネラルバランスを崩す危険性があるため、口の中に入った味覚の段階で受け付けないようにしているとも考えられています。
私たちの五感に欠かせない味覚には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味と5つの感じ方がありますが、その中でも苦味は複雑な要素で成り立っています。
人間の本能として苦味を感じる場合、それらの多くは「体にとって危険な物質である」と判断され拒絶されます。しかし、長い経験によりそれらは「大人の味覚」として許容されることもまた身をもって実証されています。一般的に苦味を感じる機能は舌の奥に存在し、それらは細胞膜に残りやすい特性があります。
自然界に存在する苦味を感じる成分として、チョコレートに含まれるテオブロミン、ウリ科植物に含まれるククルビタシン、またセロリに含まれるアピイン、柑橘類に含まれるリモノイドなどがあります。
他にも、アルカロイド、カフェイン、クエルシトリン、スルフォラファン、モモルデシンなども苦味を感じる成分として知られています。
「苦い」と感じる食材については、代表的な物がいくつかあります。カフェインを含むコーヒーやお茶系の食品、アルカロイドを含む銀杏、クエルシトリンを含む夏野菜の代表であるピーマン、スルフォラファンを含むケールや芽キャベツ、タンニンを含む渋柿、モモルデシンを含むゴーヤなどがあります。苦味は嫌われそうな味覚ですが、たくさんの食品に含まれていることが分かります。
その他にも酒類、動物やサンマ・サザエなどの魚介類の内臓、豆腐のにがり等々、苦味のある食材は身の周りに普通に存在しています。
しかし、人間はその苦みも利用して、食品のアクセントとしてうまく料理の中に取り入れたり、苦味を変化させたりして食べられるようにしています。危険だと思われるような物でも、知識や経験によってうまく取り入れることができるのです。
味覚の一つである苦味を人間が感じることができるのは、「毒成分や腐った物など、体にとって危険なものを察知して吐き出せるようにするため」とされています。
疲れた時に甘い物を食べると「美味しい」と感じてもっと食べたくなります。それとは逆に、健康を損なうような危険な物に対しては「苦味を感じる」という形で危機を伝え、それ以上は体に入らないようにしてくれるのです。
子どもが大人に比べて特に苦味を感じやすくなっているのも、子どもは食べてよい物とそうでない物の違いや区別がまだよくできないからで、苦味という一種の危険センサーがより広範囲に強く反応するようになっているからだとも言われています。
甘味よりも苦味に人体が敏感なのは、そうした体を守る役割が強いからですが、もちろん苦味があるからといって、必ずしもそれが有毒であるとは限りません。
大人になるとピーマンやコーヒーなどの苦い物も口にできるようになるのは、それまでの知識や経験によって「口にしても大丈夫な物」だと分かってきたからです。
塩分は人間にとって欠かせない物質であるため、塩味という味覚が与えられていると考えることもできます。苦味については「大人の味」と考えられます。カフェインの入ったコーヒー、アルカロイドの入った銀杏、モモルデシンの入ったゴーヤなどは子どものうちは食べられませんが、大人になると抵抗なく口にすることができます。
苦味は本来、体によくない物が口に入った時に、すぐに吐き出せるようなセンサーの役割をする味覚です。ところが成長していく過程での知識や経験により「口にしても大丈夫な物」と分かった結果、苦い物でも食べられるようになったのです。
たかが味覚と思ってしまいますが、苦味の位置付けを見ていると、何か人類の進化と相通じるものがありそうです。